Beauty and Beast 2


 早朝というよりは深夜。
 緊急回線によって叩き起こされたザックスとクラウドは、素早く着替えて告げられた集合場所である飛行場へと急いだ。

「ここまで来ておいて今更だけど、オレもついて行っていいわけ?」
「旦那も待機とも何とも言わなかったからな~、来いってことなんじゃねぇの?」
「…………」
 いい加減だ。緊急ミッションでもあり、クラウドにとっては初めてのミッションでもある。
 いつもの仏頂面に、僅かな緊張が現れていた。
 ザックスもそんなクラウドに気づき、ことさら明るく振舞っている。
「ま。そんな気張んなって、いきなりソルジャー連中に混じって戦闘しろとは旦那も言わねぇよ」
「…………だといいけどな」
「…………」
 ザックスは笑顔のまま固まった。
 時々恐ろしく非常識なのだ、セフィロスは。
「いいよ、オレも一応覚悟してるし。やらなきゃいけないことはやる。ソルジャーと一緒に戦えると思うほど自惚れても無いし……足手まといだっていうならさっさと退く」
「……」
 妙に聞き訳がいい子供、というのも調子が狂う。
 クラウドはやはり強気で、周囲を慌てさせているほうがいい。

(……なんて、俺もまぁ、甘くなっちゃってさぁ、ホント)

 苦笑しながらも、ザックスは決意していた。
 クラウドは絶対に守りきって、生きてかえす。







 飛行場に一同が整列する。クラウド以外は全てソルジャーだった。
 ファーストは居ないものの、セカンドクラスを主軸にサードを含んだ構成となっている。
 レベルAクラスの編成は、今回のミッションの緊急性、危険性を知らしめた。
 そこへ黒の長衣も翻してセフィロスが現れる。

「全員揃ったな、詳細は飛行艇内で説明するが行き先はアイシクルエリアだ」

 無駄口は叩かず、ソルジャーたちは足音もなく次々と飛行艇に乗り込んでいく。
 ザックスの後に続いたクラウドは、入り口に立っているセフィロスの顔を見て僅かに逡巡するも何も言うことなく乗り込んだ。
 

「では、今回のミッションを説明する」
 一同を見渡したセフィロスの視線がクラウドで止まり、不穏な笑みを浮かべた。
「アイシクルエリアに新しい魔晄炉を建設するために派遣された調査団が失踪した。その後、原因究明に一般兵による部隊が派遣されたが、それも失踪した。というよりは、消滅したと言ったほうが正しいか。最後の無線連絡によると、相当に手ごわいモンスターが出現したらしい。そのモンスター討伐が今回のミッションの主要目的だ」
「はいはーい」
 クラウドの隣に居たザックスが場にそぐわない明るい声で挙手をした。
「何だ、ザックス」
「そのモンスター、て何かわかってるんすか?」
「はっきり判明したわけではないが、ドラゴンである可能性が高い」
 そこで初めてソルジャーたちに動揺が現れた。
 最強の武力を誇るソルジャーといえど、ドラゴンというのは手に余るモンスターなのだ。
「単体か複数かもわからんが、各自そのつもりで装備を整えておけ」
 セフィロスの指示にソルジャーたちから応答がかえる。
「クラウド」
 いきなりセフィロスに名を呼ばれて、クラウドの髪が揺れた。ソルジャーたちの視線が突き刺さる。
 飛行場にクラウドが姿を見せたときから、彼等は不審そうな不思議そうな顔でクラウドを見ていた。
 ただ、そこに敵意はなかったためクラウドも無用なストレスは感じずにすんでいたのだが……。
「はい、サー。何でしょうか?」
「こちらへ」
 あまりセフィロスの傍には居たくなかったが呼ばれたとあれば仕方ない。
 クラウドは付き纏う視線を感じながら、セフィロスの眼前に立った。
「これをつけておけ」
「……何ですか?」
 渡されたのはマテリア穴が3組ある腕輪だった。今までクラウドが目にしたことが無いような高価そうな品物にすぐには受け取るのが憚られる。しかもマテリア穴の二つが埋まっている。
 一般兵には基本的にマテリアの支給は無く、一応使用方法は教授されるがケアルなどの基本的なものに限られている。色からして支援と魔法系のマテリアらしいことはわかるが……。
「腕輪だ。嵌めてみろ」
 セフィロスに引っ込める気は無いらしい。
 クラウドはしぶしぶ受け取り、腕にはめてみる。クラウドには貴金属を身につける習慣が無いので、違和感が拭えない。正直に言えば、少し邪魔だ。
「よし、嵌められたな」
「は?」
 クラウドは首を傾げた。
 セフィロスは説明しなかったが、クラウドはかなり後になってそのブレスが女性用のものだと知ることになる。
「それはミネルバブレスと言って、炎・冷・重・聖属性の攻撃を無効化する」
 ひゅぅっ、と背後でザックスが口笛を吹いた。
「嵌まっているマテリアは、何かわかるか?」
「……支援と魔法ですよね」
「そうだ。ファイナルアタックと蘇生のマテリアだ。五回までは戦闘不能になっても自動的にアレイズで回復することができる。勝手に発動するからお前が何かする必要は無い」
「……」
 クラウドは微妙な気分だった。一人力の弱い自分を気遣ってくれているのはわかるが、そんな5回も戦闘不能になると思われているのだろうか。情けないような、腹が立つような……。
「すっげ~、ファイナルアタックなんて初めて見たぜ」
 腕輪を覗き込んだザックスが、マテリアをしみじみと眺めている。
「ウォールで攻撃を届かないようにはするが、万一に備えておくにこしたことは無かろう」
 セフィロスの言葉に、周囲が静まった。ザックスまでもが奇妙なものを見たようにセフィロスを見ている。
 クラウドだけは、何故そんな状況になるかわからず、薄く笑うセフィロスに首を傾げた。
「なんつーか、旦那……一応気遣いが出来るんっすね」
 実のところ、セフィロスが他人のことをここまで気遣うところをはじめて見た。だからこそ驚いた。
「当然だろう」
「…………」
 偉そうに、今までは放っておいたくせに……ザックスは胸中で呟いた。
 セフィロスが相当にクラウドを気に入っているのは判っていたが・・・衆目がある中も堂々とそれをあらわすということは、暗にソルジャーたちにもクラウドの安全に気をかけるようプレッシャーをかけているも同然だ。
 自分の力のみに頼ってクラウドを守ろうと思っていたザックスは、自身の不甲斐なさが悔しい。セフィロスはいつだって、最適だと思う方法を違えず選んでくる。
「どうした?お前も欲しいのか?」
「え?何かくれるんっすか?くれるっつーなら何でも!!」
 不満そうな顔を途端にへらりと崩れさせたザックスは手を刷り合わせる。あまりの変わり身の早さに隣でクラウドが呆れていた。
「これをやろう」
「……どんな効果が?」
「特に無い」
「はぁ!?」
「まぁ、売れば350Gくらいにはなるだろう」
「安っ!」
 くつくつとセフィロスが笑い声をたてる。


 漫才のような二人のやりとりに、クラウドはそっと溜息をついた。