蒼き狼


「セフィロス・・・あんたって初めて会った時もそうだったけど、俺の顔っていうより目見てないか?」
 カウンターの向こうに立ち、バーテンの真似事をしているセフィロスにクラウドは肘をつきつつ首を傾げた。
「無意識だ。気に障ったのなら許せ」
 謝っているのに、命令しているような独特のセフィロスの物言いは、相手を挑発しがちだが、慣れている
 クラウドにはそれが普通になっている。
「別に悪くないけど……珍しいか?同じ魔晄だろ?」
 魔晄を浴びたソルジャーは皆、同じような瞳を持つ。薄青の瞳孔が縦長になった瞳。感情を伺いにくい
 不思議な浮遊感を与える目だ。
 この瞳をクラウドが持った時、ザックスは酷く残念そうにしていた記憶がある。
「違う」
「え?……あ、ありがとう」
 目の前にカクテルを置かれて礼を言う。
「お前の瞳は、このカクテルのように、透明な青。懐かしい蒼海を宿した瞳だ」
「…………」
 それを言うためにわざわざこのカクテルを作ったのだろうか?
 キザな振りにキザなセリフ。ザックスあたりがすれば、クラウドも腹を抱えて笑っただろうが、セフィロスではそうもいかない。様になりすぎる。
「俺の瞳は、お前のものより緑が濃いだろう?」
 言われて、セフィロスの瞳をしげしげと眺める。
「そう、言われれば……そう、かなぁ?」
 部屋の照明を抑えているので、よくわからない。
 確かめようと身を乗り出したクラウドの唇に、セフィロスのものが重なった。
「んっ……セフィロスっ!」
「して欲しそうにねだっていた」
「ねだってないっ!……たく」
 僅かに頬に朱をのせた、クラウドは作ってもらったカクテルを少し口に含んだ。
 すっとした清涼感の後にぴりりと辛口がきいている。
「油断も隙も無いんだからな」
「当然だ。お前と居るときはどんな油断も隙も見逃さないよう、注意しているからな」
「そんなこと注意しなくていいんだよっ!」
 まったく、まったくと……人形のように整った美貌に悪魔が誘惑するような微笑をのせたセフィロスを
 きっと睨みつける。

「そういう瞳も好きだ。お前の瞳は美しい、クラウド」
「……何を企んでるんだ?」
 伺うクラウドに、セフィロスはひょいっと器用に肩眉をあげた。
「心外だな。俺は思ったままを言っただけなのに」
「本当にそうなら良いけど、これまでの付き合いでそうだった試しが無い」
「そうか」
 セフィロスが柔らからな笑みを湛えた。
「では期待に応えなければならんな」
「応えなくていいって!・・・開き直ったあんたって手に負えない……」
「フフ……だが、私がお前の目を気に入っているのは本当だ」
「魔晄に染まっても?」
「愚問だな。私は色だけに惹かれているのではない。お前が瞳に宿す強さに惹かれているんだ」
「…………」
 クラウドが顔を伏せた。
「どうした?」
「よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるよな……」
「思いを告げるのに何を恥ずかしがる。クラウド……あ」
「ストップ!」
 クラウドが顔を赤くしてセフィロスの口を両手でふさいだ。
「今日は……何言っても駄目だからな」
 今日は週に一度のクラウドの休間日なのだ。何の休みかは聞かないで貰いたい。
 赤い顔をしながらも、気丈に睨みつけるクラウドの手にセフィロスは優しく触れ、口づけを落とす。
「やれやれ告白も許してもらえないとは」
「言うだけならいいけど、あんた絶対にそれだけで済まさないから」
「・・・察しが良すぎるのも問題だな」
「あんたが言うな。……もう、俺寝るから」
 疲れたように立ち上がったクラウドの腕をセフィロスがひいた。
「セフィ……」
「これくらいは許されるだろう?」
 お休みのキスだと、額に口づけられる。……ある意味、口にされるより照れる。

「おやすみ、クラウド」
「・・・おやすみ」