でばがめ、やじうま
ランバー砦。
あと少しで陥落というところを王と王妃の働きにより、危機を脱した砦は、活気が甦り、
兵士たちは歓喜し、砦はすでに勝利したかのような賑わいを見せていた。
その当の立役者である王と王妃は2人きりで砦を出ていた。
2人きり……。
―――のはずだったのだが、ここにそっと2人の後をつける人間がいた。
「こ、こら押すなっ!」
「わ、私では……こら、お前っ!」
「す、すいませんっ」
そっと?王と王妃の様子を覗いているのはランバーを守るクリサンス騎士団員である。
彼らは団長であるコンフリーに命じられ、砦を従騎の一人もつけずに出て行った王と
王妃の護衛にやって来たのである。
……が、しかし。
2人の様子が先ほどから何やら……その、出て行けない雰囲気なのである。
剣を合わせて、何かを誓っていた二人は……しばらく見つめあっていた。
やがて、王が……王妃の頬にそっと手をすべらせた。
「うぉっっ!!」
団員の一人が声をあげた。
「こらっ、お前っ!不謹慎だぞっ!!」
「で、ですがっ」
そう、思い出してみれば2人は結婚式もそこそこに駆けつけてきてくれたのだ。
ちょっとばかり甘々~な雰囲気でも仕方がないではないか。
そう、騎士団員たちは納得した。
……大いなる勘違いである。
2人は……というかウォルははっきり言って命がけなのだ。
……とか何とかやってるうちに国王の顔が王妃にゆっくりと近づいていく。
「あぁぁっっ!!」
またまた先ほどの団員が声をあげる。
……ちょっとうるさい。
「こらぁっ、お前っ!!叫ぶな!!」
「バレるだろうがぁっ!!」
「静かにしろーっ」
「で、で、でも~ぉぉ」
日ごろ規律正しい団員たちも主君の濡れ場にいささか混乱ぎみである。
口づけを交わした2人は……何やら話していたようだが突然に王妃が国王に抱きついた。
「あっあっあ」
「ひ……妃殿下~っっ!!」
「陛下~~っ!!」
団員たちはあてられっぱなしである。
国王は王妃の華奢な体を抱き上げた。
王妃の顔は嬉しげにほころび、笑い声をあげる。
「妃殿下……お綺麗ですよね~」
「陛下は……果報者でいらっしゃる」
「う、うらやましいです~~」
初々しく美しい花嫁。
……独り者の団員たちは2人の様子を涙を流しながら本気でうらやましげに見つめていた。
「俺も……嫁さん欲しいなぁ~」
「馬鹿者、まだまだ叙勲してもらったばかりのお前が図々しいっ!」
「そうだ、俺だってまだ独り身なんだぞっ!!」
……国王と王妃の護衛に来たことも忘れて、盛り上がる団員たち。
国王と王妃の2人がどう思おうと、傍からみれば新婚ほやほや、甘々、いちゃいちゃしているようにしか見えない。
その団員たちの隠れている後ろ、これまた出るに出られない者が約一名。
言わずと知れた、シェラである。
こちらは、2人の間が緊迫したものであるとわかっていて、もしやここで2人は袂を
分かってしまうのか……と心配していただけにほっと胸を撫で下ろしている。
良くも悪くも、どんな場所においても周りをヤキモキさせる2人なのであった。
その後―――
すっかり役目を忘れて野次馬と化していた団員たちはコンフリー騎士団長に大目玉を
くらったのだった。