39.星の声 【NARUTO シカナル?】








 全ての生き物が眠る、真の夜。
 森の奥深く、目を閉じていると頭に響く声がある。



     ”おいで”
                 ”早く”

                             ”愛しいこ”




 一人の声ではない。多重に反響して、何人の声なのかわかならい。
 その上、男なのか女なのか・・・若者か老人か・・・判別のつかない不思議な”声”。
 物心ついた時から聞こえるそれに、俺は『星の声』と徴をつけた。












「”星の声”?」
 めんどくせぇ、が口癖のシカマルは俺の話にあからさまにうさんくさそうな表情を浮かべた。
「もちろん、本当に星が話してるわけ無いけどな。比喩として丁度いいかなと」
 
 中忍に昇格した祝い・・・なんて大層なものでは無いが、暇つぶしにと声をかけると、珍しくも『めんどくせぇ』
 という言葉もなく無言でついてきたシカマル。仮の宿りの下町の家ではなく、森の中の”家”にて茶を煎れ、
 菓子まで出してやった。カカシあたりが知れば、破格の待遇にシカマルを闇討ちしかねないだろう。
 暗部の仕事で留守にしていて良かった。出来るならば永遠に帰って来るな、と祈っておこう。

「・・・で、どんなこと言うんだ?その声」
「そうだな・・・”来い”とか、”待ってる”とか”愛しい”とか・・・」
「・・・・・愛の告白か・・・・?」
 ぼそりと呟いたシカマルに、俺は腹を抱えて笑い出した。
「くさーっ!お前でもそんなこと言うんだな」
「うっせーよっ!・・・だけどな、それヤバくねぇか?」
「何が?俺の頭が?」
「違うって、わかってんだろ?・・相手に心当たりないのか?」
「無いことも無い」
 意味ありげに口を歪める。確かに声の相手が誰か大凡の見当はついているし、まずそれに間違いないだろう。
 別に声がするだけで害は無いので放置している。
「・・・ならいーけどよ。自覚してるみてーだし」
「俺、お前のそういうところ気に入ってる」
 余計なことは言わない。聞きたいことも無理に問い詰めようとはしない。
 あくまで主導権はこちらにあると思わせるシカマルの性格は嫌では無い。
 それを正直に言ったまでだったのだが、目の前のシカマルは飲んだ茶を気管につまらせ、真っ赤な顔をして
 咳こんでいる。・・・・きたねーな・・・こっちに顔向けんなよ。


 『星の声』


 無条件で包み込むような、温かく優しい声・・・・。
 何も知らない俺だったら、ふらふら招かれたかもしれない・・・けれど。
 ”俺”は、決してその声に振り向くことは無いだろう。
 どんなにこの世界が厳しく、つらく、無感動でも・・・・逃げるのだけは嫌だからだ。俺のプライドが許さない。

 それでも、子守唄がわりに・・・眠るのは悪くない。




「・・・・・・ナルト?」
 目を閉じ、耳をすませる俺に、シカマルが似合わない心配そうな表情を浮かべる。

「変な顔」
「な・・・・っ・・・・・・てめぇなぁっ!」



 星の声。
 俺は、あんたたちの声に応えることは出来ないよ。

 








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