32.死体 (NARUTO・イタナル)
足元に転がるのは 土気色した顔、虚ろな眼窩。胸や腹に突き刺さる無数のクナイ。彩る真っ赤な液体。 完全無欠なる死体。 人がモノと成り果てるとき。 ソレを初めて目にした時からナルトは何の感慨も抱きはしなかった。 むしろ、生きているときから興味も関心も無かったのだろう。 自己か他か。 ナルトにとってそれさえわかれば後は不必要なものだった。 余計な感情は勘を狂わせ、破滅へと繋がる。 周囲の迫害の中、ナルトは己の感情を殺し、無いものとして扱うことを学んだ。 だから、なのか。 同類とも言える隣に立っている男が、静かに手をあわせるのが不思議でならない。 「何、やってんの、イタチ」 「ん?・・・・ああ、ただの癖だ。気にすることはない」 「癖ぇ?」 随分変わって癖もあったものだ。 「そんなことしても意味は無いのに」 「意味は、ある」 「?」 「・・・・・もっとも死者を悼んだり、神仏に祈る、という意味では無いが」 「だったら何?」 「・・・区切り、かな。一つの仕事が終わったという。仕事というものは、ただ漫然とだらだらこなしていると、どうしても 能率が下がりがちだ。それを防止するための区切り・・・手を合わせることにしたのは、思いついた中で一番、手っ取り 早かったからだ」 「なるほど」 それならばナルトの理解の範疇だ。 「では、帰ろうか」 「ああ」 ナルトは応えを返しながら、僅かに手をしならせた。 転がっている死体に、ぼっぼっと火がつき、またたく間に炎となったそれは、周囲のものには全く影響なく、死体だけを 青白い炎を包んでいく。 全てを焼き尽くす、高温の炎。 後には何も残らない。 「・・・・・・・・」 これもまた、区切り、なのかもしれない。 |