シンデレラ・カプリッチオ 5
両脇を美青年に囲まれた美少女の姿はそれはそれは華やかで会場でも一際目立っていた。
女性たちは誰もが青年たちを意識して居住まいを正し、秋波を送っている。男性二人(青龍ズ)はその視線に気づいているのだろうが、全く無視している。そんな女性たちよりも、二人にとって美少女=秋生の気を相手よりも引こうとあの手この手をつかって奮闘している。
「慣れない靴でおみ足がお疲れでしょう。どうぞこちらへお掛け下さい」
ツェリンが椅子を勧めれば、
「ヘンリーが用意したデザートです。お口にあえば宜しいのですが」
ビンセントが可愛らしくデコレートされたケーキを差し出す。
「ありがとう、ツェリン。美味しそうだね、ビンセント」
お褒めの言葉(?)に二人揃って胸を当て、頭を垂れる。
まるで姫に仕えるナイトのように。彼等のその場所だけ、まるで違う時が流れているように……。
「……あれ、いい加減にして欲しいんだけど」
セシリアが右手にワイングラスを持って、据わりきった視線を秋生たちに向ける。
「……」
ヘンリーに言葉は無い。あの二人(青龍)が揃って時点で彼等の暴走を止めることが出来る者は(秋生を除いて)居ない。秋生はといえば、二人に傅かれている状態にも全く動じずヘンリーの作ったデザートに舌鼓みを打っている。ある意味大物だろう。
「勝手にやってろっていうのよ!」
ぐいっとワインを一気飲み。傍らのテーブルにはセシリアが飲み干したワインのボトルが無数に転がっている。幾ら飲もうとアルコールなどに酔うことなどない四聖獣。いったいどこまで飲むつもりなのか、とホストであるヘンリーは眩暈がした。
ツェリンは幸せそうにデザートを頬張る秋生を、更にその数倍幸せそうに愛しそうに見つめていた。目覚めの青龍であるツェリンには、どれほど焦がれようと常時傍に侍ることなど許されない。束の間のこの時間は至上の喜びだった。対するビンセントは、こちらも眠りを守る青龍といえど黄龍としての意識を残したままの転生者に己の本性を隠すことなく仕えるなど、黄帝の時代以来初めてのこと。この二度と起こりえないであろう奇跡の時間を何よりも尊く感じていた。
つまり互いに譲る気など全く無かった。秋生に向けるものとは全く真逆の、互いを射殺さんばかりの鋭さで睨み合う。
『青龍』
聴覚ではなく、意識に直接呼びかけるような声に二人ははっと秋生の顔を見た。
焦げ茶色の瞳が金色に変化している。
いつの間にか黄龍が顕現していた。
さっと二人の顔に緊張が走り、厳かに膝をついた。
『我にとっては、どちらも青龍。比ぶべくもなく、大切だ』
「黄龍殿っ」
『この転生体にとってもな』
慈愛に満ちた眼差しは、母でもあり父でもあり、全てを統べる者しか持ちえぬ深さを孕んでいた。
『其方たちが思うままに』
人の生は短く、許された時は短い。
かけられた魔法はじきに解けてしまうだろう。御伽噺のシンデレラの魔法のように。
秋生の瞳が閉じられ、ゆっくりと開いたときには元に戻っていた。
「ミスター・工藤?」
「ビンセント、ツェリン……」
セシリア、ヘンリー、玄冥。みんな大好きだよ。
ゆったり刻まれた微笑に、涙が出そうになった。
その後、慣れないドレスに疲労した秋生は、ビンセントにお姫様抱っこをされて(秋生は羞恥にかなり抵抗したが無駄だった)会場を後にした。ツェリンも当然のごとくその後に続き…取り残された会場内では呆然とした空気が流れていたらしい。
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