遥かなる
まどろむ。
ふわふわと、心地よい。
これは夢。楽しき夢。
永久の夢。
「・・・んっ」
窓から差し込む日差しがまぶしく、目を閉じる。
朝。
世界のはじまり。
「お目覚めですか、ミスター・工藤」
扉の向こうから控えめな声がかけられる。
「うん。起きた」
秋生の声に、扉があけられる。
「おはようございます」
「おはよう、ビンセント」
「・・・何かありましたか?」
「へ?」
「いえ、ご機嫌がいいようですから」
「そうかな?・・・ん、なんか気持ちいい・・・夢見が良かったのかも」
「夢見、ですか」
ビンセントが苦笑する。
夢の中で、夢を見ている・・・苦笑したくなるのもわからないではない。
「朝食は、ヘンリーが腕を振るうようですよ」
「へぇ!」
秋生は飛び起きた。
「よぉ」
「おはよう、ヘンリー。早いね」
「まぁな、宵越しで仕事をしてきた帰りだ」
つまりは、寝てないということか。
「大丈夫?」
「俺を誰だと思ってる?」
「・・・ヘンリー・西。13Kの虎。不死身の男、セシリアのおもちゃ」
「こら待て!何だ最後のはっ!!」
捕まる寸前で身をかわす。けらけらと笑って逃げ回る秋生は心底楽しそうで、ヘンリーは大きく肩をすくめた。
「あたしは、こんな大きな図体ばかりのおもちゃは願い下げよ」
「あ、セシリア。おはよう」
「おはよう。朝から元気ね」
我が物顔で、ソファに身を預け、秋生に手をあげる。
「うん、凄く寝覚めがよくてね」
普段の秋生の寝汚さを知っているセシリアには、朝からすっきりした顔の秋生が不思議だったのだろう。
「あ、そう。ところで今さっきの、誰が言ったのよ」
「玄冥」
「「・・・あのジジィ」」
セシリアとヘンリーの言葉が見事に重なった。
息はぴったりだ。
「ヘンリー。おなか空いたんだけど・・・?」
「ったく、待ってろ。すぐに出来る」
空腹を訴える様子は、鳥の雛。親鳥が餌を運んでくるのをせっせと待っている。
「ミスター・工藤。本日のご予定は?」
秋生の隣にいつの間にかちゃっかりと居座ったビンセントが、恒例のセリフを吐いた。
「いつもと同じ。大学行って、バイトして帰り」
「では、夕食をご一緒しましょう」
「うんっ!」
二人のやりとりを、セシリアが『これだから・・』と言わんばありに、視界の端で首をふる。
「セシリアも来る?」
「丁重にお断りいたします。あたしもまだ命が惜しいから」
「そう????」
首を傾げる秋生の向こうで、ビンセントだけは満足そうに頷いていた。
「ほら、出来たぞ」
「うわっ!おいしそうっ!いただきますっ!!」
もくもくと湯気を立てた品が、テーブルに次々に運びこまれる。
とても朝食とは思えない豪華さと、品数。
「おう、丁度いいときに来たのう」
「メシどきだけはのがさねぇな・・・・」
「ほっほっほっ」
玄冥が指定の席にちょこん、と腰掛ける。
穏やかなとき。
遥かなる、とき。
いいなぁ・・・と。
秋生は今日も幸せだった。