文明の利器
時代が進むに連れて、人間は様々なものを発明し、便利さを手に入れていった。
それは四聖獣にとって、役に立つ時もあったし、不便だと感じることも多かった。
機械は意志が無い。ゆえに記憶操作がきかないために、四聖獣にとって不利な情報も残ることが
あり、それが鬱陶しくもあった。
「あら、秋生。携帯変えた?」
「あ、うん」
メールの着信を確認していた秋生の携帯を目ざとく見つけたセシリア。
「昨日出たばかりの最新機種じゃない」
「そうなんだ」
「そうなんだ、て・・・」
「朝、ビンセントに渡されたばっかりだから、実は使い方もまだよくわからないんだ」
にへら、と秋生が笑う。
「・・・あの過保護男っ」
頭を抱えるセシリアを気にすることなく・・・このあたり、大物なのかボケなのか難しいところだが・・・
ほけほけと秋生は尋ねる。
「セシリアの番号もちゃんと登録してあるよ」
「・・・・・・」
邪気の無い笑顔に、セシリアはがっくりと肩を落とした。
「全く、秋生が20を超えた男だってこと、わかってるのかしら!」
打ち付けた拳の下、綺麗に磨かれた大理石の塊に罅が入る。
「・・・まぁ、それなりにわかってんじゃないのか?」
その罅に目をやり、諦めの吐息をつきつつヘンリーが応えた。
「どこがよっ!」
セシリアの柳眉が勢いよくつり上がり、ヘンリーをにらみつけた。
ほとんど・・いや、全くの八つ当たりだ。
「どこがってなぁ・・あいつが何もなく、携帯電話なんかを秋生に渡すと思うか?」
「思うわ。いつでも秋生に連絡できるようにとでも思ってるんじゃない?」
「・・・・・・」
否定できないのがつらいところ。
「まぁ、それ以外にも理由があるんだが」
「何よ」
「あの携帯にはGPS機能がついていて、いつでもあいつは秋生の居所を知ることが出来る」
「・・・・・・・」
「秋生も大概トラブルメーカーだからな。あいつも野放しにしておくのが不安で仕方ないんだろ。しかも、
請求明細はあいつに届くわけだから、いつ誰に電話をかけたかすぐに判明する」
「それって、ストーカーって言わない?」
「・・・相手が嫌がって無いんだから、違うだろ・・・おそらく」
「あたし・・・今、ちょっと秋生に同情しちゃったわ。あたし、そんなことされたら我慢できないもの」
そんなものを渡された日には、その場で即座に木っ端微塵に破壊してしまうに違いない。
「お前だけじゃなくて、普通そうだと思うぞ。秋生が例外なんだ」
「そのこと、秋生は知ってるのかしら」
「知らんだろうな。・・・まぁ、知っていたとしても少しは文句言うかもしれないが、許すだろ」
「・・・器が大きいのか、鈍いのか」
セシリアが感嘆するような、呆れるような顔で首を振った。
「どっちもだろうな」
ヘンリーが苦笑いを浮かべた。