体験就職 6
1週間はアッという間に過ぎ去った。
1週間という期間に、色々すぎる体験をした秋生は東海公司に対して今まで以上の愛着のような
ものを感じずにはいられなかった。
今まではビンセントの会社ということで、他人事では無いが、どこか自分とは別のものと思っていたのが
そこに勤めている人たちの顔を知り、人柄を知り、優秀さを知った。
東海公司はビンセントの会社。
けれど、それはそこに働く人たち一人一人によって支えられ、形作られているのだ。
環境も良く、働き甲斐もある。素晴らしい会社である。
「それでどうだったのよ?」
秋生の体験就職終了を記念して(?)ビンセントの屋敷に集まった四聖獣たちはいつものように
ヘンリーの料理に舌鼓を打ち、秋生を囲んだ。
「うん、いい会社だなって思った」
「いい会社、ねぇ・・・」
セシリアと秋生の会話をビンセントは無言で聞きながら、小皿に秋生の料理を取り分けている。
「皆、一生懸命働いてる――楽しそうに。日本の会社って仕事っていうか、義務みたいであんまり
働いてるのが楽しいっていう人を見たことが無かったから、目からうろこが落ちたみたい。驚いた
けどこういうのいいなって思ったんだ。東海公司はいい会社だね、ビンセント」
「お褒めに預かり恐縮です」
「僕みたいなのが紛れ込んでても全然嫌な顔されないし、凄く親切だった」
「じゃ、候補にあげておくの?就職先の」
「そうできたら夢みたいだけど・・・僕なんかじゃ無理だよ」
「そのようなことはありません。最後に提出されたレポートを拝見し、廖など感心しておりましたよ」
「それが本当だったら嬉しいけど・・・でもやっぱり駄目だ」
思いのほかはっきりと否定の言葉を口にした秋生に四聖獣たちの箸が止まった。
「今の僕じゃ絶対にビンセントに甘えてしまう。とんでもない不始末を仕出かしそうだもん」
「全く私は構いませんが・・・」
「そうそう、どこかの誰かさんはそれが生きがいみたいなもんなんだから」
「言いえて妙じゃの、ほっほっほ」
「セシリア、玄冥」
ビンセントの鋭い眼光にもどこ吹く風で、二人とも料理を口に放り込んでいく。
「ミスター・工藤、それほど東海公司で働かれるのは嫌ですか?」
「ううん。働けたらいいなって思うよ。本当に。だけど、今はまだ駄目」
「今は?」
「うん。まだ卒業まであるから・・・もう少し頑張って、自分に自信がもてるようになったら、正面から
東海公司の試験を受けて、それで採用されたら働きたい」
「ミスター・工藤・・・」
「だからビンセントも贔屓したりしないで、見ててよ」
「男だな、秋生」
にやり、とヘンリーが笑い、グラスを掲げた。
「わかりました。私は基本的に採用は人事に一切まかせています。手は出さないと約束致しましょう。
ですが、あなたを応援することくらいは許していただけますか?」
「もちろんっ!僕一生懸命、勉強するからさ・・・わからないことがあったら教えてよね」
「喜んで」
ほのぼの空気を漂わせはじめた二人に、セシリアがすねたようにぼそりと呟く。
「何よ、結局ビンセントの思うままじゃない」
「まぁそう言うな。ヤクザや密売を始められるよりずっと平和だ」
「青龍も黄龍殿がお傍におる限り、大人しくしておるじゃろうしな」
「何それ。秋生はビンセントの鎖じゃないわよ」
「似たようなもんだな」
「そうじゃな、ほっほっほっ」
「全く・・・」
セシリアも苦笑を浮かべた。
散々周りをやきもきさせた、秋生の就職騒ぎも落ち着くところに落ち着いた・・・のか?