祝う日
「今日はマンションの僕の部屋には立ち入り禁止!」
そんなお触れが秋生から四聖獣たちに発せられたのは、ある晴れた普通の日だった。
「ミスター工藤?何かお気に障ることでも・・・!?」
一人、あわてふためいたのは誰あろうビンセントである。
「違うって。別にそういうのじゃないし、今日だけだから。お願い」
手をあわせ、頭まで下げられてはビンセントにはこれ以上何も言うことは出来ない。
一番口うるさいわりに、一番秋生に甘いのがビンセントだ。
「何か怪しいわね・・・また変なことはじめたんじゃないでしょうね?」
「酷いな、セシリア。大丈夫。危ないことじゃないからさ」
さて、どうだか・・と腕を組むセシリアだったが家の中に閉じこもるというのに危ないも何も無い
だろう、と意外にあっさりと引く。
ヘンリーと玄冥はもともと秋生の部屋にやってくることは滅多に無いので問題ない。
厄介なことになればビンセントが呼び出すだろう、と傍観することにした。
「あと今日の夜は皆空いてるかな・・・?」
「もちろんです、ミスター工藤」
「別に何も無いわ」
「俺も特に無いな」
「ふむ・・・今夜は取引は無かったのぅ・・・」
良かった、と秋生は笑顔を浮かべるとじゃぁ、7時に・・と約束をかわした。
そして秋生の計画は開始する。
密かに買い込んできた材料を冷蔵庫から取り出し、エプロンを引っ張り出すと腕まくりをしてキッチンに
たった。
一人暮らしをしていたころは結構、頻繁に料理をしていたが、香港に来てからというものビンセントが
秋生にそんなことはさせないので、ずっとご無沙汰だった。
「よしっ!頑張るぞっ!!」
気合を入れて、秋生は包丁を持つ。
かなり危ない手つきだった。
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「・・・はぁ、何とか完成・・・」
最後の一品をリビングのテーブルに運び終えた秋生は額をぬぐう。
その手には絆創膏がいくつも貼られていた・・・原因は間違いなく包丁だろう。
「さてと、そろそろ皆が来るな」
ピンポーン。
思っていたら、早速誰かが到着したらしい。
秋生はエプロンをはずすと、にこにこと玄関へ出迎えに急いだ。
「いらっしゃい」
扉を開けた秋生の目の前で四聖獣がそろっていた。
「下で会ったから一緒に来たわ」
「ミスター工藤、もう入ってもよろしいか?」
「うん。どうぞ。ちょうど出来たところだったから」
「「「「・・・???」」」」
何が?と四聖獣たちは首をかしげる。
秋生は四人の先頭に立ち、リビングに案内した。
「「「「・・・・・・っ!!」」」」
その案内されたリビングの様子に、四聖獣たちは驚きに目をみはり、口を開けた。
リビングのテーブルには、数々の料理がならび、美しい花が飾られている。
「これはいったい・・・」
「え?秋生の誕生日・・・・じゃないわよね・・・」
「これはもしかして・・・全部秋生が作ったのか」
「おお・・・凄いのぅ・・・」
「あは、ヘンリーみたいに見た目も味もよくないけど・・・一生懸命作ったから」
秋生は照れたように頭をかくと、ビンセントたちに席につくように促した。
「しかし・・・これはいったい何事なのですか?」
「そうよ。秋生の手料理披露会?」
疑問いっぱいの四人に秋生は笑った。
そして・・・
「皆、誕生日おめでとう」
「え・・・・」
「は・・・?」
「誕生日?」
「儂たちのかの?」
秋生は、うんと大きく頷く。
「僕は皆に誕生日を祝ってもらっただろ?だから皆のもお祝いしたいなって・・・ただ、皆の誕生日なんて
僕は知らないから・・・僕と、皆が初めて出会った今日にしてみたんだ」
秋生の言葉にしばし、呆然としていた四人は・・・
「それでは、ミスター工藤・・・この料理はミスター工藤が手ずから、私たちのために?」
「あまり上手じゃないけどね」
「とんでもありませんっ!ああミスター工藤、この感動をどう伝えていいのか・・・」
ビンセントがドサクサに紛れて秋生の手をとる。
秋生の手は何かしょか包丁の傷があった。
「このようにお怪我までなされて・・・ありがとうございます」
「大げさだな~」
「秋生ったら・・・びっくりしたわよ。でも、ありがとう」
「俺たちのために、か・・・。嬉しいな」
「長生きはするもんじゃ」
これまで生きてきた中で、秋生のような存在の黄龍はいなかった。
四聖獣たちがそろうことも。
また、自分たちが祝ってもらえるなど・・・考えたこともなかった。
それだけに皆、感慨無量で・・・・
「皆、食べないの?」
「あ、いえ・・・いただきます」
せっかく秋生が作ってくれたものを食べてしまうのは何だか勿体ない気もしたが、なまものである。
こうして眺めておくままにも出来ない。
「・・・どう?」
だし巻き卵を口に含んだビンセントに秋生がおそるおそる尋ねる。
「美味しいですよ。ミスター工藤は料理もお上手なのですね」
「いやっ、そんなことはっでも・・・良かった」
秋生もほっとしてようやく、料理に手をつけた。
世の中は、平和だった。