麒麟のアイドル


++塙麒VS劉麒++






 しばらく同盟の会議に参加していなかった柳国が復活したのは、草厳が劉王となって一年が経つ頃だった。
 劉王になるにあたって色々と騒ぎがあったものの、今は真面目に王稼業に勤しまざる負えなくなった草厳は予想以上に真面目に励んでいる。おかげでまだまだ貧しいながらも堅実な復興を遂げつつある。
 同盟の会議には、官僚級、首脳級など王では無く官僚同士が集まって実務的な内容を話し合うものもあるが、こちらではやはり王の『勅命』が物をいうとあって王様級の会議が最も重要な会議となる。

 そして、今回は巧国での開催となった。

 王様会議に麒麟も参加するかどうかは国によって異なる。ついて来ない国もあれば、来るなと言われても断固としてついて行く!という国もある。今回柳国は劉麒が劉王と共にやって来ていたのは、恐らく劉王を一人にしてとんでも無いことをやらかさないかという監視の意味が大きいだろう。
 ちなみに会議は概ね平和に終わった。
 平和に終わらなかったのはその後の懇親会だった。

「陽子様!」
 会場に到着した陽子に早速駆け寄ってきたのは、陽子大好き!な塙麒だった。
 頬を高潮させて駆け寄る様は、大好きな飼い主に駆け寄る犬のようだ。
「六樹(りくじゅ)」
「陽子様、この度は巧国までお越しいただきありがとうございますっ」
「六樹がお礼を言うことでもないと思うが…巧国は慶国の隣国だし、来いと言われればそれこそ物の数じゃない。いつでも塙麒のために飛んでくるよ」
「陽子様・・・っ」
 無自覚に誑しな台詞を吐いた陽子に、塙麒は煌々とした眼差しを注ぐ。

「ご歓談中、失礼致します」

 そんな二人に、珍しくも声を掛けてきたのは劉麒だった。塙麒や他の麒麟と違い、公的でも私的な場所でも今まで自分から陽子に声を掛けてくることなど皆無だった劉麒に、塙麒は一歩下がった。見た目的にも年齢的にも青年姿の塙麒のほうが年上なのだが、少年姿の劉麒に迫力負けしている。
「ご壮健なるお姿を拝察し、恐悦至極…」
「ああ、劉麒。この場でそんな堅苦しい口上はしなくて良い。劉麒も元気だったか?」
「・・・変わりなく」
 にこにこと普通に話しかけてくる陽子に、劉麒は少し居心地が悪そうにしている。
 声を掛けたものの、どうして良いのかわからない風の劉麒の頭をつい、陽子はぽんぽんと軽く叩いた。
 劉麒は絶句し、塙麒もパチクリと目を瞬かせる。
「先は長いのだから、無理はしないように」
「…景、主上・・・」
「陽子、で良いよ」
「・・・はい、では、私のことも・・・煌青とお呼び下さい」
「・・・・それで良いのか?」
 陽子は少し躊躇ったように問い返す。
「はい。・・・私の、とても大切な方につけていただいた名ですから」
 強い劉麒の視線を受けて、陽子も躊躇いを消すように頷いた。
「わかった。ではその名で呼ばせていただこう」
「お願い致します」
 そして陽子にはわからないように、劉麒は塙麒へと視線を流した。
 『氷の麒麟』と呼ばれる無表情が基本の劉麒は、ふっと微笑を浮かべる。それが、何やら勝ち誇ったようなものにも感じられて、向けられた塙麒は意味がわからず疑問符を浮かべた。







「おー、何か劉麒が塙麒に喧嘩売ってるぜ」
「売られているほうは全く気づいておらんがな」
 その様子を傍目から観察していた雁国主従。
 ちょっとした三角関係だな、と延王が呟くと調子の乗った六太が『俺も混ざってこよう!』と飛び出した。

「相変わらず麒麟たちによくもてる」

 延王の視界の先で、六太に飛びつかれた陽子と、その六太に物騒な視線を向ける麒麟たちの微笑ましい光景が展開されていた。













BACK



書いてて塙麒やら劉麒やらぐっちゃになりかけた(苦笑)
草厳(劉王)、劉麒はオリキャラです。
劉麒は塙麒が嫌い…というか苦手。
夏コミ新刊『忘却の虜囚〜』を既読後だと陽子と劉麒の遣り取りの意味がわかります。