お悩み相談室


++延麒++





本日のお客様は、雁州国雁台輔です。
近頃のお悩みは何ですか?









 悩み?
 あー、そんなもん。この世の全てが悩みだぜ。
 だってさ、麒麟なんて自分で言うのもどうかと思うけど、『慈悲』の獣だぜ。
 なのにさ、人間なんて絶対戦うのやめねーし、血はどうどう流しやがるし・・・本当、いい加減にしやがれって
 思うだろ?あいつら絶対、戦うの好きなんだぜ。
 いくら俺らだって、見捨てるぜ。
 ・・・だけど、悲しいことに『慈悲』の生き物だろ。
 どっかで期待してしまうんだよな。
 はぁ・・・本当、損な生き物だよ。
 
 ・・・は?それはどうしようも無いから他の悩みは、て?
 そうだな・・・・・・あ!

 やっぱ、あいつのことだよな。
 誰だって?
 そんなの決まってるだろ!尚隆だよ。いちおー、俺の主。一応な。
 本当、あいつがしょうもない奴でさ!
 ・・・あ?でも五百年も国を支えてるって?
 ちっちっちっ。
 国を支えてんのは、官吏だって。有能すぎる官吏が揃ってるからな。
 国を潰そうと思ったってそう簡単には潰させてもらえねーもん。
 本当、有能すぎて涙が出るって・・いーじゃねぇか少しくらい寝坊したって・・朝議なんて出たってどうせ同じ
 ようなことばっかり議論してんだからさ。俺が一人居ないくらいでそう違いはしねーて!
 はー、話がそれたな。
 そう、尚隆なんだけどさ。
 最近どうも何か企んでそうでさぁ・・すっげー楽しそうな顔してんの。
 500年も付き合ってればな、ろくなこと考えてないのはわかるな、うん。
 ・・・よく国を抜け出しちゃあ隣に行ってやがるし。
 隣?慶だよ、慶。
 あそこも波乱万丈の国だったんだけどさぁ、この間新しい女王が立って漸く落ち着きそうなんだよな。
 その女王・・・陽子って名前の海客なんだけどさ。
 これが、尚隆好みっていうか、俺好みっていうか・・あ、いや・・・そんなことはどうでもいいんだって!
 (やべー、余計なことまでしゃべるところだったぜ・・)
 海客だからか、俺たちには考えもつかないこと仕出かすんだよな。
 新鮮で面白い。しかもすっげー美人!
 最近思うんだけどな、天帝って顔で王を選んでんじゃねぇかってな・・・疑わしいぜ。
 まぁ、ともかく!尚隆のツボを突きまくってんだな、これが。
 だから、偽王を討つときもほいほい王師を動かすし、援助も何かと便宜図ってやってるし、泰麒捜索の時も
 何だかんだ渋ってた割に、最後にはあいつらしくもなくあちこち頭下げてまわってたしな。
 ・・・あいつが誰を気に入ろうと、それは勝手だ。だけどなぁ・・・。
 陽子は慶国の王だ。王は民のもの。誰か一人のものにはならない。だから王の結婚は許されない。
 そのくらい尚隆だってわかってるだろうし、俺だってわかってるんだ。
 だけどさぁー。
 ままならないものってのが、世の中にはあるんだよな。
 感情ってのは、ある程度は抑えこめるけど、完全には無理だ。
 な、こう考えると王も麒麟も哀れな生き物だろ?
 え?別に我慢することは無いって。
 そういう訳にもなー。だって俺、麒麟だぞ?仁の獣なんだって!
 ・・・・・全然そうは見えないって?
 余計なお世話だよっ!
 ったく、悩みごと相談っていうから話してやってんのに。
 もういいよ!好きにするからさ!悩むだけ損ってのもあるしな!
 何かあったら、あった時。そのとき考えることにするよ!
 じゃぁな!










「・・・朱衡、台輔の部屋から話し声が聞こえるんだが、誰か来てたか?」
「さぁ?誰もいらっしゃらないと思いますが?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・五百年だからな」
「・・・・そうですね」
「・・・ついにボケはじめたか・・・」
「帷端・・・・それは禁句ですよ。私たちも人のこと言えないほど年食ってるんですから」
「・・・・そうだな」
 有能すぎる官吏二人は、雲海の遠くを目を細めて眺めていた。





 





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