春宵
‐しゅんしょう‐
10



【ATTENTION!!】
とってもパラレルです。
陽子が高校生です。一応。でも最強です(は?)
陽子を今の設定で高校生にしてみたかったんです!
ちょっとした出来心だったんです・・・・・・

以上。






 大きな……陽子が見上げて両腕を広げてもまだ大きい玄関の扉。それを玄関と呼んでいいのかもわからない。
 その扉が開いて中に入るとお帰りなさいませと声が掛けられる。
 それに首を傾げてただいまと応えた陽子は首をぐるりと回した。見上げた天井はどこまでも高くて、明るくて広い室内はまるでホテルのように整えられている。
 広い玄関ホールの奥には二回へと続く螺旋階段がある。

「陽子、部屋に案内するよ」
 陽子をここえ連れて来た大人が横から声を掛けてきた。
 彼は自己紹介で『今日から陽子の家族になるよ。パパって呼んでくれてもいいからね』と言っていた。
 本気なのだろうか。幼い陽子はよくわからない。
 ただあの家から出ることが出来てほっとした。
「陽子の部屋は二階に用意したよ。必要なものは揃えたつもりだけど足りないものがあったら言うんだよ」
 陽子は頷く。
 自分の部屋がある。ここに居てもいいのだと言うこと。
 ふわふわの絨毯の上を男に手を引いて貰いながら歩く。男の手は温かくて大きくて陽子の手をすっぽりと包んでしまっている。優しい手。陽子の歩幅にあわせてゆっくりと歩いている。
「今日は疲れただろうから夕食まで部屋でゆっくりするといいよ。家の中のことはまた案内するからね」
「はい」
「さあ、ここだ」
 男が扉を開いた先にあったのは、おとぎ話に出てくるような広い部屋だった。
「隣に寝室があって、反対がバスルームとトイレがある。バスルームを使うときは誰かに声を掛けるんだよ」
「……。」
 陽子の目がぱちぱちと瞬く。家の中にまた家がある……幼い陽子がそう思うほどに部屋は広かった。
「どうかな?気に入ってくれた?」
 薄いグリーンと柔らかなベージュで統一された室内は本当に陽子が一人で使っていいものなのか。
「……ここ、私のへや?」
「そうだよ。何か気に入らなかった?女の子だから最初はピンク色にしようと思ったんだけど、女の子だからって皆が皆ピンクが好きなわけじゃないって言われてね。陽子の目の色と同じ緑色にしたんだ。ピンク色が良かった?」
 陽子は首を振る。
 ピンク色は好きじゃない。自分にはずっと似合わないと思っていたから。
「ちょっと座ってお茶にしようか」
 手を引かれて部屋の中央にあったソファに抱き上げられる。隣に男が座った。
 お茶は白い服を着た人が用意していた。
「あのひとは……だれ?」
 もしかしてこの大人が陽子の『父』というのならば『母』なのだろうか。
「ん?うちで雇っているメイド……私や陽子の身の回りの手伝いをしてくれる人だよ。何か困ったことがあると相談するといい。ああ、そうだ執事の遠甫も紹介しておこうね」
 大人が『メイド』という人に何かを告げると部屋を出て行く。それに入れ替わるように年配の男が現れた。
「遠甫、この子が陽子だよ。今日からよろしく頼むよ」
「それはそれは。私は中嶋家の執事をしております遠甫と申します。どうぞよろしくお願いいたします、陽子様」
「陽子、です。よろしくおねがいします。えんほ、さん」
「いえいえ私に「さん」はいりません。遠甫とお呼びください。もしくは「じい」とでも」
「じい……」
「はい」
 じいと陽子から呼ばれた遠甫はくしゃりと顔を笑顔にして頷いた。
「ちょっと遠甫ばかりずるくないかい。陽子、私のことは『ぱぱ』と呼んでね」
「……」
「えっ駄目なのかいっ!?」
 うまく応えられずにいる陽子に大人は衝撃を受け頭を抱える。
「旦那様、幼い子供に無理強いはよろしくありませんぞ」
「……ぱぱ、て」
「ん?」
「ぱぱ、て何です、か?」
「「……ああ」」
 何か深く二人は納得したらしい。
「陽子はお父さん、てわかるよね?」
 頷く。
「パパ、て言うのはお父さんって言うことだよ」
「お父、さん……」
 陽子の「お父さん」は目の前の大人では無い。無かったはずだ。よくわからない。混乱する。
「陽子、陽子」
 大人は陽子の前に膝をついて顔を覗き込む。
「今日から、始まりなんだよ」
「はじまり……」
「私と陽子の新しい家族のはじまりだよ。今日から私が陽子のお父さん。そして陽子が私の娘、子供なんだよ」
「……」
 大人はゆっくりと話していく。
「初めて会ったばかりで陽子は私のことをまだ何も知らない。だからこれから私のことを知っていって欲しい。私にも陽子のことを教えて欲しい。少しずつ家族になっていこう。よろしくね、陽子」
 大きな大人の手が陽子の前に差し出される。
 その手は陽子はここへと優しく導いてくれた。傷つけない手だ。
 大丈夫だろうか?大人はそんな陽子の不安をなだめるように微笑んでいる。大丈夫だよとでも言うように。
 だから。
「……。……はい……おとう、さん」
 勇気を出して、そっとその手に触れた。


 そうして、この日から陽子は『中嶋陽子」になった。














陽子が中嶋陽子となった日のお話でした。
パパはあの人ですよ!(笑)