● 女子会 3 ●








 雲海の見える露台で、余人を排した三人の少女が言葉をかわす。
「最近はどうだ?」
「どうだ、て言われても困るけど。人手は少ないから走り回ってるわ」
 陽子の周囲は最低限の人員で動いているため一人の負担が大きいのだ。
 浩瀚たち側近が本当に信用できる者しか陽子の傍に置けないと考えているために。
 陽子本人も多くの人間に囲まれることを厭うゆえにそれをよしとしている。
「祥瓊は?女史の仕事はどうだ?」
「まあ最下級の女官だし、色々と覚えることも多いし顎で使われてるわよ」
 別にそれが不満では無いけれどと祥瓊は苦笑する。
「陽子のほうこそどうなのよ。また抜け出してない?」
「……最近私が抜け出したという話を聞いたか?」
「聞かないけれど、そういう抜け道知ってそう」
「……」
「あら、だんまり?」
 沈黙する陽子を祥瓊と鈴がふふと笑う。
 陽子は降参と両手をあげた。二人には敵わない。
「多少は容赦して欲しいな」
「多少も何も王は普通に王宮の外を出歩いたりしないものよ?」
「いや、もしかしたら祥瓊が知らないだけで王は以外と下界を出歩いているかもしれないぞ。ほら、延王とか」
「……それはもう例外では無いかしら」
「王というのはよく知らないけど、私もそう思う」
「奇遇だな。私もそんな気がしていた」
 三人は顔を合わせ、くすっと笑った。
「でもそのうち陽子もそう思われるようになるわよ」
「そうそう!」
「いや、同類にされるのはちょっと納得がいかない。私はあそこまで自由奔放では……」
「無い?」
「本当に?」
 二人の面白がるような視線が陽子に突き刺さる。
「……」
 陽子は胸を押さえた。
 心が痛い。友人たちは容赦ない。
「……今日は美味しい菓子を用意してみた」
 かなり無理矢理な話題転換を陽子は計った。
 そんな陽子に困ったものねと笑い、二人は寛容に卓の上に視線を移す。
「カステラと言う」
「かすてら?」
「ああ。卵で作る甘い菓子だ。六太君に蓬莱から持ってきてもらったレシピ本に載っていたもので、比較的簡単に作れそうだったから」
「陽子が作ったの?」
「……私が作れると思うか?」
「無理ね」
「無理だわ」
 その通りなのだが、心が痛む。
「膳夫に頼んで作って貰った。だから安心して食べてくれ」
「ふふ、拗ねないで」
「ごめんなさい、陽子」
 二人は陽子に笑うと早速カステラに手をつけた。
「まあ、柔らかい。ふわふわいしてるわ」
「……甘い、優しいお菓子ね」
「そう、この甘さと白端がよく合うんだ」
 陽子が満足そうに頷くのに、祥瓊と鈴が顔をあわせる。
「わかるけど……何だか贅沢」
「そうだな。私もそう思う。……だからこの贅沢を皆ができるようになればいいと思う」
 雲海に目を向け、遥か遠くを覗く。
 まるでその先に願った世界があるのだと言うように。
「……なればいい、じゃないでしょ?」
「そうする、のでしょう?」
 力強い友人たちの言葉に視線を戻した陽子が破顔した。









基本の3人