仙籍万歳!













 ティータイムである。
 色々と殺伐とした空気の中でほっと息が吐ける空間がある。
 陽子の世話をしてくれている女官の玉葉にお茶を煎れてもらい、鈴と祥瓊も呼んでまったりする。
「玉葉も座ってくれ」
「かしこまりました」
 ほのぼのと笑いながら穏やかな所作で玉葉が腰掛ける。
 予王の頃から居るとは聞いているが彼女が何歳なのか確かなところはわからない。
 何しろ仙になったら年を取らないのだから、年を聞いても無駄なのだ。まさに人を外見で判断できない。
 若く見えても百歳超えなんてざらだ。
「まだまだ玉葉の茶を煎れる腕には適わないな」
 陽子が茶を口に含み、しみじみと吐露する。
「陽子……そんなこと張り合ってどうするのよ」
 鈴が苦笑した。王様が女官と茶を煎れる上手さで張り合ってどうするのか。
「だって自分で煎れられるようになれば手を煩わせることも無いだろう?」
「そこは煩わせなさい。陽子は人を使うことに慣れなさいよ。王様なんだから」
 祥瓊の厳しい指摘が入る。
「うーん、そういうの難しいな……」
 人を使うことに慣れなくてはいけないとはわかってはいても難しい。
 玉葉はそんな陽子を慈しむように笑顔を浮かべて見つめている。
「まだこちらの世界には慣れないな……鈴の時はどうだった?」
「どうって……別に、そんなに向こうと変わらないし」
「え?」
「え?」
 鈴の言葉に陽子が首を傾げ、それに呼応するように鈴も首を傾げる。
「いやいや。色々と変わるだろう?」
「何が?」
「え、と……食べるものとか、ベッド、じゃなくて牀榻とか、えーと、厠とか」
「食べるもの?でも陽子は普通に食事するわよね」
 祥瓊が普段の陽子の躊躇いの欠片も無い食事風景を思い出しながら問いかける。
 露店の食べ歩きも普通にするし、食堂にも出入りする。むしろ祥瓊のほうが躊躇いそうな場所にも陽子は平気な顔で突撃していく。
「出されたものを食べないのはもったいない。それに私は庶民派だ」
 金波宮の料理人が泣きそうなことを王様が堂々と言い切る。
「それに向こうに居た頃の食事は本当に色々な国の料理が入ってきていて種類豊富だったから」
 こちらは基本的には中華だ。日本食っぽいものもある。
 だが洋食はさすがに無い。陽子に料理の才能があれば洋食を普及できたかもしれないが残念ながらそっち方面の才能は欠片も無い。
「ふーん、じゃあ牀榻は?」
「これは人の好みだと思うんだが、あちらでは欧米化が進んでスプリングという……どう表現したらいいか難しいが、柔らかいけど弾力があるという牀榻が一般的だったから」
「柔らかいけれど……」
「弾力がある?」
 何だそれ?という顔で祥瓊と鈴が顔を見合わせる。
「そうだっ!蒟蒻みたいな牀榻だ!」
 いいこと思いついたとばかりに陽子が手を打つ。
「蒟蒻、ねえ……」
「そうそう。今度六太君に向こうから持ってきて貰おうかな。どの程度の大きさまで大丈夫かな」
 そんなことに隣国の麒麟を使おうとする陽子は大物なのか考えなしなのか。
 何とも言えず顔が引き攣る二人。
「でもこちらに来て一つ、とてつもなく感謝したことがある」
「あら何?」
「たぶん、鈴ならわかってくれると思うが……」
 祥瓊で無く鈴ならと言われて鈴が私?と指差す。
「ほら、向こうだと女性は月に一度……あるだろう?」
「……ああ、それ」
 しばらく置いて鈴が頷いた。鈴もこちらに来て長いのですぐには思いつかなかった。
「何よ」
 一人わからない祥瓊が身を乗り出す。
「主上。恐れながら、私は昔聞いたことがございます。あちらの女性は月のものというのがあり、月に一度非常に痛い思いをするのだと。本当のことだったのですね?」
 玉葉が年の功を発揮する。
「女性だけなの?男性は無いの?」
「男性は無いな。子を産むことに関するものだから」
「子を産む……それが不思議よね」
 祥瓊がしみじみ言う。
「私に言わせれば木になるという方が摩訶不思議だけどな。だがそのおかげであれが無いと思えば、これだけで仙になった甲斐があるよ」
「それだけでって……陽子ったら」
 祥瓊と鈴は笑いあう。玉葉も笑みを零した。

 ティータイムは和やかに穏やかに過ぎていった。









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