華炎記
 ■ 第二十七話 ■



 美しく整然とした関弓の街。
 それは確かに見ごたえのあるものだ。
 けれど、それだけだ。
 この光景のどこに延王が言う価値があるのか。これだけの豊かさを維持している王だとういう自負か。
「ここは昔、一面が焼け野原だった」
「え……」
「雑草さえ無い。全てが俺の前の王によって焼き払われ、動くものは何も……無かった」
「……」
 延王が淡々と話した視線の先に荒涼とした大地が広がって見えた……気がした。
 今の豊かさとは全く想像でき無い光景だ。
「狂った王によって雁国は滅びる。誰もが、どの国もがそう思っていただろう」
「……でも滅びていない」
 今やどの国の羨む豊かな国だ。
「俺は地方の一軍人に過ぎなかった。首都の荒廃は徐々に雁国の全土に広がり、俺の住んでいた場所にも狂った王の手は伸びていた」
 延王の手が挙がり、街へと、街の向こうへと向けられる。
「……何故、王が……」
「さて。何故だろうな」
 己の国を豊かにするからこそ選ばれた王では無いのか。
(……否、私のように、選ばれ損ねることも、ある……のかも、な)
「麒麟は国を豊かにする可能性のある者を王にする。選ばれるということはそういうことだ」
「……でも。国を滅ぼそうと、したのでしょう?」
「王は間違えるのだ、陽子。万能では無い」
「万能……では無い、確かに……そうでしょう、ね」
 陽子などを王などに選んだのだ。陽子は自分自身が万能だとは到底思えない。
「わからない……王、て……王って何なんだ。突然に現れた麒麟に唐突に王などと言われて」
 もう訳がわからない。




「国の生贄」




「……っ」
 ぽつりと落とされた言葉に陽子は息を呑んだ。
「俺は、そんな風に思ったな」
「何故、そんな風に」
「不思議か?陽子ならわかるのでは無いか」
「……」
 わからない、とは陽子には答えられなかった。
 否応なく王と呼ばれ、身を捧げ……扱き使われている。それはまるで。
「生贄というよりは……小間使い?」
 延王の顔が驚いたように歪み、そして。
「くっ……」
 腹を抱えて爆笑した。